1.目的

徳島県内においても、衛生管理者は法令に基づいて中規模から大規模事業場において多く選任されているが、その実質的な業務の内容や問題点についてはあまり把握されていない。また、衛生管理者に対して生活習慣病をはじめとした健康管理の担い手としての期待も大きいが、この現状も十分把握されていない。
そこで本研究では、衛生管理者に対するアンケート調査により、徳島県内の衛生管理者の実際の業務と生活習慣病予防への取り組みの実態を把握し、衛生管理者活動および生活習慣病対策への取り組みのあり方を提言することを目的とした。

2.方法

徳島県内の労働者50人以上の513事業場の衛生管理者 1名づつを対象とした(複数名選任されている場合は主たる衛生管理者)。調査は、平成12年10月1日から11月15日の間に行った。調査は、あらかじめ調査予定を事業場に周知した上で、参考資料のアンケート用紙を各事業場の 衛生管理者宛に返信用封筒とともに郵送した。アンケートのうち、衛生管理者による記載でないもの、労働者50人未満の事業場の場合は対象から除外した。
513事業場の衛生管理者のうち、175人より回答を得、回収率は34.1%であった。一部の項目については、有害業務のある事業場とそうでない事業場との比較を行った。 統計処理は、Excelアドインソフト「Statcel」にて、2元配置分散分析、χ2乗検定を行った。アンケート結果は、事業場の現状等と衛生管理者の活動等に大きく2つに分類し、以下のような 内容で設問を作成した。

Ⅰ.事業場の現状等について
1)事業場について(設問6)
2)産業医(設問7)
3)事業場がかかえる産業保健上の問題点(設問8)
4)生活習慣病への事業場の取り組み(設問11)

Ⅱ.衛生管理者の活動等について
1)衛生管理者(回答者)について(設問1~5)
2)衛生管理者業務内容の現状(設問9)
3)衛生管理上の問題点(設問10)
4)衛生管理者の生活習慣病への取り組み(設問12)

3.結果と考察

Ⅰ.事業場の現状等について

1)事業場について
法定選任数よりも多く衛生管理者の有資格者を有する事業場が相当数あった。

2)産業医
産業医の出務回数・安全衛生委員会への出席、事業場と産業医との連携において、有害業務による健康影響に対する産業医と事業場の配慮がうかがわれる。

3)事業場がかかえる産業保健上の問題点
生活習慣病、快適職場づくり、腰痛予防対策、メンタルヘルス対策、交代勤務者対策、VDT作業対策の順に問題点としてとらえられている。有害業務を有する事業場では、特に生活習慣病対策、有害化学物質対策、粉じん対策が問題点としてより多く認識されている。

4)生活習慣病への事業場の取り組み
有害業務を有する事業場では、健康づくりのPR、生活習慣病予防対策の検討、健康教室等がより多く取り組まれている。

Ⅱ.衛生管理者の活動等について

1)衛生管理者(回答者)について
事務部門に所属する衛生管理者が66.9%と約2/3を占めた。年齢では、40~50歳代の衛生管理者が多く、経験年齢は3年未満と6年以上が多かった。専任状況は良好であるといえる。
兼務の種類では、総務部門ついで人事部門が多かった。衛生管理者業務を行う前の業務の結果と合わせて、人事・総務部門の内部での業務変更が最も多いと考えられる。

2)衛生管理者業務内容の現状
業務の実施状況では、健診を中心とした健康管理業務と職場巡視が比較的よく実施されており、他は1/3程度となっている。有害業務を有する事業場の衛生管理者では、健康管理業務以外の実施率が有意に高くなっている。

3)衛生管理活動上の問題点(表1)
他の業務で忙しいが最も多く、ついで知識・経験不足、管理体制の不備、スタッフ不足が続いている。

表1)衛生管理者の活動上の問題点
問題点 %
1)他の業務で忙しい 39.9
2)衛生管理者としての知識・経験不足 25.7
3)労働衛生管理体制の不備 20.0
4)衛生管理スタッフ不足 17.1
5)産業医の指導・協力不足 8.6
6)事業上の経営不振 7.4
7)行政の指導不足 7.4
8)事業主(上司)の衛生管理活動の不理解 5.1
9)衛生管理者の指導に対する労働者の不理解 3.4
10)その他

 

4)生活習慣病への取り組み(表2)

予防対策では、健診有所見率の把握が57.7%と最も多く、予防のための情報提供等が38.3%、続いて安全衛生委員会への働きかけ、禁煙指導、産業医への働きかけの順となっている。早期発見・早期治療への取り組みでは、健診事後措置、情報提供、産業医への働きかけ、測定機器の整備が比較的よく行われている。疾病管理では、要管理者の把握が34.9%で最も多くなっている。
予防対策、早期発見・早期治療、疾病管理すべてにおいて、有害事業場の衛生管理者は有意により多くの取り組みを行っていることが示された。

表2)衛生管理者の生活習慣病予防への取り組み
取り組み %
1)一般健診の有所見率の把握 57.7
2)生活習慣病予防のための情報の収集・提供 38.3
3)健康保持増進の衛生委員会への働きかけ 21.7
4)禁煙指導 18.3
5)健康保持増進の産業医への働きかけ 18.3
6)運動指導 15.4
7)運動保持増進機器購入の事業主への働きかけ 10.3
8)節酒指導 9.7
9)食事指導 8.0

 

4.まとめ

1)徳島県内の衛生管理者が勤務する事業場の特徴
サービス業、保健衛生業(病院等)が比較的多い。問題点として、生活習慣病対策をあげているが、有害業務を有する事業場ほどより多く問題点として認識している。

2)徳島県内の衛生管理者の業務実態
事務部門に所属し、経験6年以上の中高年の衛生管理者が多く、健診を中心とした健康管理業務を主として行っているが、作業環境管理、作業管理、衛生教育等についても1/3程度の衛生管理者が関与している。
特に有害業務を有する事業場の衛生管理者では健康管理以外の業務をより多く行っている。
しかし、本来の業務の忙しさと知識・経験不足により、衛生管理活動が不十分と感じている。

3)徳島県内の衛生管理者の生活習慣病への取り組み
健診結果の把握・事後措置、情報提供、健康要管理者の把握が主体となっているが、有害業務を有する事業場の衛生管理者では、より多くの取り組みを行っている。

4)今後の課題
忙しさと知識・経験不足の中で広範囲の業務をこなしている実態から、今後の課題として、衛生管理活動以外の業務との両立、衛生管理者の生涯教育の充実等があげられる。また、産業医等の医療スタッフや人事労務スタッフとの調整的役割をさらに担っていくことも求められる。

主任研究者 徳島産業保健総合支援センター 所長 七條 茂文
共同研究者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 島 健
徳島産業保健総合支援センター 相談員 松森 茂
徳島産業保健総合支援センター 相談員 橋本 澄子
徳島産業保健総合支援センター 相談員 横田 雅之
徳島県医師会産業医部会部会長 中川 利一
徳島県医師会産業医部会理事 大木 裕子