1.はじめに

事業場において、衛生管理者はメンタルヘルス対策を担当する職種として重要視されており、産業医、管理者との連携により同対策をマネジメントしていくことが職務として期待されている。特に、プライベートの配慮、職場復帰問題で困難さを訴える意見が多いことから、衛生管理者等のスタッフの育成支援、職場復帰支援システムに関する調査研究を行った。

2.目的

平成15年度調査研究「徳島県における産業医活動実態調査」により、メンタルヘルス対策への産業医の取り組み状況が明らかになったことを受けて、産業医、衛生管理者等を支援することを目的としてこのシステムを作成した。

3.対象

今回はメンタルヘルス不全者の中でも、気分障害(うつ病症状を訴え休業に至った者)による休業者の職場復帰を対象とした。

4.プログラムの運用にあたってのチェック項目の検討

プログラム運用に当たっての留意事項は以下のとおりである。
1)休業に至った者が、職場復帰の意志を持っていること。
2)職場における安全衛生管理システムがすでに構築されていること。
プライバシーに関する取り決めを確認すること。
3)きめ細やかな対応ができることを目的として、「調査票」を入院中に作成し、本人又は産業医から主治医に
見ていただき職場の作業方法、作業環境等の具体的な指導に役立てること。
4)「調査票」を作成するにあたって、本人と職場に合意があること。
職場であらかじめ調査票の存在を明らかにしておくこと。
プライバシーの保護に十分配慮すること。
5)「調査票」の使用目的は、あくまでも主治医が職場復帰をすすめる上での参考資料として使用されること。
6)本人の不利益につながらないこと。
7)産業医は主治医の意見を重視するが、職場の状況をできるだけ詳細に伝え、患者本人の訴えを併せて参考に
してもらい、現在の病状で、どの程度の職務を遂行することが可能か判断してもらうこと。
8)入院期間中のリハビリに産業医から提供された職務の詳細を役立ててもらうこと。
9)家族のサポートがあること。

5.プライバシー保護の要点

健康情報の目的外使用や提供は、本人等(家族や親戚のこともありうる)のインホームドコンセントを得ることを前提にして、検診結果のうち、診断名、検査結果などいわゆる生データの取り扱いについては、その利用にあたって医学的知識に基づく加工・判断を要することから、産業医や保健師などの看護職に行わせること。
それ以外に取り扱わせるときは、必要に応じて健康情報を適切に加工したうえで提供するなどの措置を講じること。等

6.プログラムの運用

運用に当たっての留意点は以下のとおりである。
1)職場復帰プログラムは産業医が主治医に意見を聞きながら作成して職場に提供する。
2)復帰した従業員を一定期間フォローアップして、適応状況を評価し、その結果を主治医に伝え情報を共有する。
3)本人、職場、家族、産業医、主治医が密に連携する。
4)不都合が生じたとき、本人、家族、職場、同僚からの相談の受け入れ機関を作る。
(当面は産業保健推進センターの相談員、将来的にはEAPのような外部資源を活用する。)
5)衛生委員会等にて不備な点の改善につなげること。同僚、職場、社会に向けて、どのレベルに改善を訴える
か検討する。
6)従業員の教育システムを同時に計画すること。
7)Q&Aを作成することにより様々な事例への対比を参考にすること。

7.職場復帰支援システム実施の手順

患者、家族、職場、主治医がお互いによりよい連携をとることがよい関係を作ることになり、職場復帰に向けてもお互いにチームを組んで問題解決をすすめやすくする。
大企業においては、休業や復帰判定の委員会を持っているところもあるが、大方はそうでない。職場復帰のタイミングをどのようにとるか?回復期にある人を職場はどのように受け止めていくか?適切な判断と対応をするために職場復帰支援システムを取り入れることになる。
このシステムは本来、病気の人をどのように扱うか?ではなく、職場全体のメンタルヘルスをどうするか?自分たちのメンタルヘルスをどのようにすると働きよいか?など職場全体を考えるものでなくてはならない。

8.Q&Aによる相談回答事項の検討

●プライバシーの配慮
●大企業では、すでに診断書の様式が作成されていて、様式の空白を埋めるよう
依頼されることがあるが、企業の現状の把握ができていない場合がある。
●産業医が多忙でなかなかメンタルヘルスのことまでお願いできない。
●職場復帰したものの、すぐに病状が悪化して休職、復職をくり返す事例。
●職場復帰判定の基準は、主治医の立場、産業医の立場にわけて検討。
●診断書の提出先はどこが適当か。
●職場におけるストレス解消法は?
●主治医から出された診断書の扱いについて。
等の項目について検討し、アンサーの形式でまとめた。同時に、進行させたい社会的な対応、
企業に対して希望する点、主治医に対する要望事項を検討した。

9.まとめ

産業保健関係者が、具体的に活用できうるものとして、職場復帰の検討段階ごとの調査票などの様式も含めて明らかにすることで職場復帰支援のガイドとして機能しうるように検討してきたが、今後、更に産業保健関係者別に、各段階ごとのシステムを分かりやすく提供出来るよう検討を継続したい。

主任研究者 徳島産業保健総合支援センター 所長 中川 利一
共同研究者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 大木 裕子
徳島産業保健総合支援センター 相談員 小谷 雄二
徳島産業保健総合支援センター 相談員 洲崎 日出一
徳島産業保健総合支援センター 相談員 横田 雅之
徳島産業保健総合支援センター 特別相談員 枝川 浩二
徳島産業保健総合支援センター 副所長 国重 雅嗣