1.はじめに

徳島県の事業場数は表1に示すように、大規模事業場は極めて少なく、中小零細規模事業場が多い。業種別では商業、製造業、建設業が全体の約半数を占めている。地場産業としては徳島市周辺には家具、仏壇製造業や木工業が散在し、県北、県南、中部地区には電気工業、製紙、パルプ工業などがあり、また、県南は水産業が盛んである。当然ながら官公庁、金融、商業、運輸業は県都徳島市周辺に多い。
当産業保健推進センターとしてはこれら各種企業に参画する嘱託産業医や地域産業保健センターの相談に携わる地域産業医の教育、情報提供は極めて重要な事業であると考えている。そこで、当推進センターの初年度の調査研究として、産業医が産業医活動に際して紐とく業務マニュアルの作成への要望をとりあげることにした。

表1)規模別事業場数
区分 規模別(人) 合計
業種 1~49 50~99 100~299 300~
食料品 502 46 14 566
繊維工業 217 11 233
衣服・その他の繊維製品 542 40 20 602
木材・木製品 386 13 404
家具・装備品 603 26 11 641
パルプ・紙・紙加工品 41 54
印刷・製本業 144 154
化学工業 221 15 21 265
窯業土石製品 172 181
鉄鋼業 17 19
非鉄金属
金属製品 194 206
一般機械器具 189 17 10 218
電気機械器具 91 27 14 136
輸送用機械器具 47 55
電気・ガス・水道業 87 10 100
その他の製造業 761 11 775
4221 254 118 24 4617
石炭鉱業
土石採取業 33 33
その他の鉱業
33 33
土木工事業 1247 1253
建築工事業 1404 34 1447
その他の建設業 476 12 490
3127 50 11 3190
鉄道・軌道・水運
・航空業
129 136
鉄路旅客運送業 154 165
通路貨物運送業 290 27 327
その他の運輸交通業
578 40 12 633
陸上貨物取扱業 15
港湾運送業 11 16
18 31
農業 66 67
林業 33 35
99 102
畜産業 28 28
水産業 41 41
69 69
商業 8896 83 28 9009
金融・広告業 986 21 12 1024
映画・演劇業 13 13
通信業 244 259
教育・研究業 1138 1146
医療保健業 1010 41 25 1082
社会福祉施設 549 555
その他の保健衛生業 62 64
1621 48 26 1701
旅館業 325 336
飲食店 2278 2279
その他の接客娯楽業 228 14 246
2831 20 2861
清掃と畜業 96 109
官公署 546 11 568
その他の事業 2136 72 38 2253
合計 26652 627 280 59 27618

2.方法

マニュアルに掲載する項目の内容は、県下の全産業医に対してアンケート調査を行い要望の多いものをとりあげることにした。(表2参照)
マニュアル作成の基本構想は次の諸点を出来るだけ取り入れるように企てた。

1)可能な限り小型で、簡便なものとする。
2)経験が少ない産業医にも役立ち、現場ですぐ間に合うものとする。
3)業務の遂行にあたって必要な法規が容易にわかるものとする。
4)通達、指針などの新しい物をとり入れる。
5)日進月歩の時代に適応出来る加除式のものとする。

表2)マニュアルにとりあげるテーマ(アンケート結果)
産業保健活動の実態調査より(1997年3月)
1. 総論的事項(労働衛生の現状等) 26(22.1)
2. 労働安全衛生法概要 32(33.7)
3. 一般健診、一般管理 48(50.5)
4. 作業環境測定、作業環境管理、作業環境改善工学 22(23.2)
5. 作業管理、労働衛生保護具 19(20.0)
6. 粉じん作業、じん肺法、じん肺健診法 20(21.1)
7. 有機溶剤業務、有機溶剤健康診断法 32(33.7)
8. 特化則業務、特化物健診法、禁止物質、許可物質 13(13.7)
9. 鉛業務、有害金属業務、健診法 10(10.5)
10. 高気圧障害業務、障害業務 6(6.3)
11. 電離放射線業務、健診法 10(10.5)
12. 振動障害業務、健診法 14(14.7)
13. 酸素欠乏危険業務、救急法 14(14.7)
14. 騒音業務、騒音測定法、健診法 24(25.3)
15. 腰痛対策、頸肩腕障害 31(32.6)
16. VDT作業、健診法 22(23.2)
17. 作業関連疾患、過労死 29(30.5)
18. 事業所作業の衛生管理、熱中症、照明、換気等 29(30.5)
19. 衛生教育、種類と方法 18(18.9)
20. 職場巡視チェックリスト 44(46.3)
21. 労働基準法概要 22(23.2)
22. 労災認定基準 28(29.5)
23. 母性保護、助産婦、女子の有害業務、法令 17(17.9)
24. 災害事例、中毒事例 6(6.3)
25. 労働安全について、障害等級 15(15.8)
26. MSDS、PL法、GLについて 3(3.2)
27. 有害化学物質(発癌物質)について、変異原性物質 20(21.1)
28. 許容濃度、管理濃度 25(26.3)
29. 外国法令(ILO等)、AL、PEL、ACGIH等 3(3.2)
30. 産業疫学概要 8(8.4)
31. 労働衛生統計(式等) 6(6.3)
32. 量反応関係、量影響関係、生物学的半減期 5(5.3)
33. 生物学的モニタリング、個人ばくろモニタリング 7(7.4)
34. メンタルヘルス、ストレス対策 38(40.0)
35. 半導体産業の衛生管理、新しい有害物質 7(7.4)
36. 新しい労働衛生学的健診法
(例えば神経行動学的検査法(テストバッテリー)神経伝導速度検査法等)
5(5.3)
37. 労働者の健康保持増進法 40(42.1)
38. 疫病対策(エイズ、STD、食中毒、成人病等) 16(16.8)
39. 健康教育(タバコ、アルコール、マリファナ等) 21(22.1)
40. 業種別産業保健(ラマッチーニのMorbis A.Dのようなもの) 4(4.2)
41. 公害(環境庁)、老人保健法、伝染病予防法など他省の法律 14(14.7)
42. その他(食生活指導、検査正常値一覧) 4(4.2)
無回答 11(11.6)

3.結果と考案

次の各項について分担執筆した。

1)産業医の職務
2)健康診断と健康管理(事後措置)
3)作業環境管理
4)作業管理
5)衛生教育
6)職場巡視
7)各論

①有機溶剤業務
②鉛業務
③特定化学物質業務
④粉じん業務
⑤高気圧業務
⑥電離放射線業務
⑦酸素欠乏(付:硫化水素)危険業務
⑧騒音職場業務
⑨労働者の健康の保持増進対策(含メンタルヘルス)
⑩腰痛予防
⑪VDT業務
⑫事務所衛生基準規則より

業務マニュアルはすべての産業医が業務を行うに当たって、すぐ間に合う小型で便利な冊子であることが望まれる。その内容は産業保健一応全般にわたるものであることが必要であるが、アンケート調査結果を参考にして高い希望のあるものは、多くの産業医の用に供する上には重視されねばならないことである。
アンケートの結果から特に地域特性等は示されず(有機溶剤業務が33%であった事は地域特性と考えるという指摘があるかも知れないが)、むしろ産業医としての基礎知識、特に一般健康管理や職場巡視に対し高比率の要望があり、法令を中心に要約した。一方近年の通達や指針、特にT.H.P(含メンタルヘルス)、V.D.T、腰痛、騒音管理等にも要望が高く、これらも指針の要約の他、実施上参考になると思われる事項をとりあげ記載した。特に平成8年の健康診断における事後措置は全文を再録し、またそれを踏まえた産業医の職務を冒頭に記した。
ここにとりあげた項目や内容は決して新しい産業保健の動向を示すものではないが、現状の産業医活動の実際において、携行して役立つものと考える。

主任研究者 徳島産業保健総合支援センター 所長 七條 茂文
共同研究者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 広瀬 暉
徳島産業保健総合支援センター 相談員 西山 敬太郎
徳島産業保健総合支援センター 相談員 島 健
徳島産業保健総合支援センター 相談員 小谷 雄二
徳島産業保健総合支援センター 相談員 森井 章二
徳島産業保健総合支援センター 相談員 森谷 寛之