1.はじめに

徳島県はタンス、鏡台、建具、仏壇等の木製家具・装備品の生産が盛んであり、特に仏壇は全国一の生産をあげ(平成9年度、全国シェア26.9%)、鏡台は静岡県と全国市場を2分しており、家具は県下の製造品出荷額の6.8%を占める主要な地場産業である。しかしこれらの事業場のほとんどは零細企業であり、産業保健に関しては、行政による統計資料は一部あるが、その実態に関する調査研究はほとんどみられない。
そこで今回、それらの製造過程において塗装作業に従事する有機溶剤取扱い者について労働衛生学的調査研究をおこなった。

2.調査研究の方法

1)対象事業場における保健衛生関連事項の概要把握
徳島県下の家具・装備品製造事業場について主として関係行政機関および業界団体による関連統計資料を基に概要を把握した。

2)有機溶剤取扱い事業場の特殊健康診断実施状況の解析
過去3年間(平成7~9年度)の有機溶剤等特殊健康診断結果の統計資料(徳島労働基準局資料提供)を基に解析を行い、家具・装備品製造事業場を他の事業場と比較した。

3)有機溶剤取扱い作業に関するアンケート調査
徳島県下の木工関係事業場366カ所にアンケート用紙を送付し、回答を得た163事業場(回収率44.5%)のうち塗装作業を有する72事業所について解析した。

3.結果と考察

1)対象事業場における保健衛生関連事項の概要

県下の家具・装備品製造事業場のうち労働保険適用事業場数は577カ所である。うち555(96.2%)が従業員50人未満であり、そのうちの半数以上(53.5%)は4人未満である。50人以上の22事業場のうち衛生管理者を選任していないところが2カ所あるが、産業医はすべて選任している。選任されている産業医、衛生管理者のすべては非専属または非専任である。

次に県下の家具・装備品製造事業場における定期健康診断結果についてみると、結果の報告を要する22事業場のうち実際に報告した事業場は13(59.1%)である。これら事業場における有所見率は56.1%であり、17種に分類された製造業の平均39.7%よりも高く、17種中4位である。

県下の有機溶剤その他の特殊健診の実施状況をみると、対象事業場数は有機溶剤326カ所、その他226カ所で、有機溶剤に関する事業場が多いが、健診実施率、対象労働者数、受診率はいずれもやや少ない。有機溶剤取扱い事業場の多くが小規模、零細であることが原因であると思われる。有機溶剤の有所見率13.2%はその他(8.4%)よりも高率である。またこの13.2%は全国平均の4.9%に比較して 2.7倍の高率である。但し対象事業場の中には家具製造以外の業種のものも含まれており、各業種割合は把握されていない。これについては次項で解析されている。

2)有機溶剤取扱い事業場の特殊健康診断実施状況の解析

結果の概要を表1に示す。事業場数、人数等は平成7~9年の3年間の累計であり、また、年2回の健診実施の場合は加算されている。各率(%)はそれらの平均である。
特殊健康診断実施事業場数は、木製品製造関係87、家具関係80、仏壇・仏具関係52事業場であり、3関係事業場の合計(以下木工関係)は219事業場、それ以外の業種(以下その他)の事業場数は415カ所であった。

木工関係  その他
健診実施事業場数 219 415
50人未満(%) 69.5 44.3
労働者数 14,497 71,337
有機溶剤従事者 2,661 10,862
受診率(%) 72.2 94.4
有所見者率(%) 16.5 9.4
尿中代謝物分布2(%) 2.5
尿中代謝物分布3(%) 0.1 1.4
医師の指示者率(%) 10.3 4.9

 

木工関係では、その他よりも従事者に対する受診率が低く(72.2%)、他覚症状有所見者率および腎機能検査、貧血検査、肝機能検査の各有所見率、医師の指示人数割合が有意に高値であった。
尿中代謝物の検査について木工関係とその他についてみると、被験者数は4,432人と6,181人、測定値の分類で分布2は2.5%と3.0%、分布3は0.1%と0.4%であった。木工関係における尿検査対象溶剤はキシレン、スチレン、トルエンが大半である。

3)有機溶剤取扱い作業のアンケート調査結果

事業場数は72事業場、従業員数は正社員1,150人、下請け88人、パート58人であり、塗装関係従事者は正社員275人、下請け22人、パート10人である。1事業場の従業員数(正社員)は50人未満の事業場が93.1%であった。塗装作業場の管理については、換気方法は全体換気と局所排気の併用が52.8%で局所排気のみが26.4%、全体換気のみが16.7%である。マスクの着用では、必ず着用が54.2%で十分な管理が行われていない。作業主任者の選任は52.8%事業場が選任している。一方、選任義務の有無がわからないが16.7%であった。産業医の選任は、選任しているが23.6%、選任していないが52.8%であった。一方、選任義務がわからないが27.8%であった。正社員の有機溶剤特殊健康診断の必要な事業場は50事業場、従事者数は255人である。この50事業場について特殊健診を一般健診で代えている事業場は20%、特に実施していない事業場は22%もある。健診の結果の通知は、異常の有無にかかわらず全員に通知が62%、異常所見のある者のみに通知は16%である。

4.まとめ

徳島県下家具製造事業場の産業保健の実態に関する調査研究を行った結果、従業員の少ない事業場が多く、有機溶剤特殊健康診断の受診率は低い。また有所見率が高く、医師の指示者率も高い。
これらは近年、中小企業の産業保健のおくれが注目されていることと符合するものとして、今後事業場の健康管理、環境管理、作業管理の専門家のサポート体制が必要である。

主任研究者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 西山 敬太郎
共同研究者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 広瀬 暉
徳島産業保健総合支援センター 相談員 三原 輝夫
徳島大学医学部助教授 鈴木 泰夫
四国大学研究員 斉藤 恵