はじめに

本調査研究は、労働者のメンタルヘルス支援のために、自覚しやすい睡眠を自己評価指標とし、労働者が良質な睡眠を確保することでメンタルヘルスのセルフケア能力向上につながる研修プログラムを作成する事を目的とした。

1.1 調査の目的および計画

徳島県内における事業場の労働者の睡眠、就業、メンタルヘルスの状況等についての実態調査を行い、睡眠と就業状況、メンタルヘルスの現状と問題点を把握する。その結果から、メンタルヘルス不調者の睡眠状況を分析し、メンタルヘルスと睡眠状況の相互関連結果から睡眠確保のための研修プログラムを提案する。

1.2 調査対象と方法

徳島県内の協力を得られた事業場で現に就業する労働者を対象として、アンケート調査を行った。

2.1 調査票の回収率および有効回答数

調査票の配付枚数は2,394枚で、回収枚数は1,916枚であった。回収率は80.0%であった。最終的に1,811枚を有効回答とした。(94.5%の有効回答率)

2.2 調査対象者の概略

対象者は、男性が1,419人(78.4%)で、女性は392人(21.6%)であった。対象者の平均年齢(標準偏差値)は、男性が38.1(13.3)歳、女性は40.4(11.8)歳であった。年齢の分布は20歳代~40歳代で約70%を占めていた。なお、勤続年数の平均値(標準偏差値)は男性10.9(10.7)年、女性は12.2(10.4)年であった。同居家族がいる者は、男女ともに80%を超えていた。

3.1 睡眠とメンタルヘルスの関連について

1)対象者の特性について、男性の回答者が78.4%と、大半を占め、家族との同居者が86.1%で、業種も製造業が約半数を占める。

2)対象者の週当たりの平均的な労働時間(標準偏差値)は、男性(回答者1,402人)で、43.2(7.3)時間、女性(回答者386人)では、40.6(7.0)時間であった。国民生活時間調査報告書(2010年調査)で、平均労働時間は男性が45時間を超え、女性では35時間程度であると示されていることから、労働時間が特に多いとは言えない。

3)今回の対象者の睡眠時間の平均は男性で6.8時間、女性では6.5時間であったが、国民生活時間調査報告書(2010年調査)等と比較すると、睡眠時間はやや少ないが、労働者を対象とした報告では類似した結果であった。

4)HADSの結果について先行研究の結果を見ると、本対象者では「問題なし」は「うつ」で32.7%、「不安」で48.3%であったことから精神的健康度はやや低いと考えられる。

5)HADS評価から見たメンタルヘルス不調者の平均睡眠時間は6.4時間であり、睡眠時間とメンタルヘルスの関連が顕著に表れている。本研究では、女性に比べて、男性において睡眠やメンタルヘルスの問題があると考えられた。

6)ISI-J合計点は、蓄積疲労度や1か月の勤務状況、HADSと高い相関を示したことから、心身の不調を判断するために有用な指標となると考えられる。

7)ストレス対処行動のBSCPについてみると、下位尺度相互の相関について、相関係数の絶対値が0.4以上で有意であったのは、「積極的問題解決」と「問題解決のための相談」のみであった。

8)本研究では、HADS合計点を目的変数とした重回帰分析では、BSCP下位尺度の積極的問題解決以外は有意な変数であり、関連があると考えられた。

3.2 メンタルヘルス不調者の特性

メンタルヘルス不調者は、HADSによる不安得点及びうつ傾向を示す得点から「確診」と判定された群とした。HADSで問題「なし」に判定された群を「確診群」と比較した結果、ISI-J集計や蓄積疲労およびHADSの平均値が確診群で高かったことから、確診群は明らかに睡眠状況や心身の不調を示していると考えられた。睡眠状況では、睡眠時間、尺度ISI-Jの最初の3項目である寝つき、睡眠維持、早朝覚醒のすべての項目で、非該当群とは明らかに異なる結果を示し、睡眠に問題を抱えている実態が明らかになった。また、確診群は非該当群に比べて、仕事に対する満足度や自由度も低いことが明らかになった。BSCP尺度によるストレス対処行動でも、確診群の得点は非該当群に比べ、不適切な対処を示す項目は高得点であり、前向きに対処していることを示す「解決のための相談」や「発想の転換」では有意に低得点で対処が十分になされていないことが明らかになった。

以上のことから、メンタルヘルス不調者の特性として、睡眠時間が少ないばかりでなく、良質な睡眠が取れておらす、ストレスへの対処行動も不適切であると考えられる。就業時間が長いのは、仕事への満足度や自由度も少なく、就業時間が長いことがメンタルに影響していると考えるよりは、むしろ仕事を早く終了させる意欲が減退した状態がもたらしているのではないかと推察される。

3.3 プログラム作成と今後の課題

調査結果を基に、セルフケアを推進するための自己評価のための調査表を作成した。作成した調査票は、各事業所等において研修プログラムに組み込むことや、メンタルヘルス不調の予防、メンタルヘルス不調者の職場復帰支援プログラムに活用できると考える。特に、近年、交替制勤務者のストレスが問題になっているが、調査票を用いることでストレスの傾向を判断し社内研修につなげる等、汎用性は高いと考えられる。

さらに、メンタルヘルス不調者の職場復帰時期の判断および復帰後の再発予防のバロメーターとして利用できる可能性も有していると考えられる。

4. まとめ

この度、睡眠とメンタルヘルスの関連が明らかになったことから、それらを総合的に自己評価する調査票を作成した(睡眠とこころの健康バランスチェック表)。睡眠に影響する疲労自覚症状25項目に回答するとチャートに結果が表示され、バランスチェックが容易に行えるようになっている。これらを活用しやすくすることで、労働者本人にはセルフチェックしやすい睡眠満足度を指標に、メンタルヘルスに主体的に取り組める資料を提供し得たと考える。また、産業医、産業保健スタッフは、労働者本人のセルフチェックを下に健康管理することで、職場のセルフケア意識は高揚し、より早く労働者のニーズにマッチした対応が可能になると考えられる。

主任研究者 徳島産業保健総合支援センター 代表 斎藤 恵
研究分担者 徳島産業保健総合支援センター 相談員 多田 敏子
徳島産業保健総合支援センター 相談員 洲崎 日出一
徳島産業保健総合支援センター 相談員 杉本 順子
徳島産業保健総合支援センター 相談員 豊崎 纏
徳島産業保健総合支援センター 相談員 中瀬 勝則
徳島産業保健総合支援センター 相談員 村田 練平
徳島産業保健総合支援センター 相談員 川上 晃代
徳島産業保健総合支援センター 相談員 佐藤 健二
共同研究者 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 教授 友竹 正人
徳島大学病院 看護部 副看護師長 田村 幸子